「北へ」展 高橋宏美さんのお手紙
「北へ」展、参加作家の皆さんに質問をしました。
北へ向けた手紙のような文章。作品とあわせてお読みください。
回答者:高橋宏美(uzüra)
1)北海道で縁のある土地
釧路
2)北海道でおすすめの場所
弟子屈
3)北海道で行ってみたい場所
利尻島 礼文島
4)おすすめの食べ物
鹿肉
5)思い出の土地や出会いなど教えてください
釧路は私にとって生まれ育った土地です。ここ数年、8月は約1ヶ月、釧路に帰省して仕事をしています。
親が一人暮らしで、何かあった時にいつでも行けるように、長期滞在になっても仕事ができる環境にしておきたい、というのも理由のひとつなのですが、何かわからない力に引き寄せられるように釧路での仕事環境づくりを進めていた数年間だったようにも思えています。そんな中、今回の『北へ』展のお話をいただき、改めて釧路とどっぷりと向き合ってみる時間をいただきました。
今回一番濃く思い出したのは祖父母、特に祖父と過ごした幼少期の時間でした。仕事に忙しくしていた両親だったので、夏休み冬休みのほとんどは祖父母の家で過ごす時間が多かったと思います。祖父母が住んでいた家は、長屋で、家の前には小さめのグラウンドくらいの畑が広がっていました。近所の人たちもみんなで使っていました。野菜や果物もたくさん育てていたし、卵は朝チャボが産んだ物を鶏小屋に取りに行って食べました。卵を部屋で温めてヒヨコが生まれて家の中をぴょんぴょんしていたかと思えば、食べる鶏肉はおじいちゃんが庭で鶏の首をしめていました。豚肉などもソリをひいて(祖父母は車を持っていませんでした)近所のスーパーに取り寄せてもらっておいたであろう骨付きのでっかい肉を一緒に買いに行ったりもしました。
家の中にはいろんなものが漬け込んである赤い蓋の瓶がいくつかあって、私には謎の食べ物だったけれど、摺った白わさびを醤油に漬け込んである瓶もあり、それは私も大好きでした。あっついご飯にのせて食べると最高に美味しかったです。白ワサビも祖父が山で掘ってきていました。山では竹もよくとってきていて、私の竹馬は祖父が作ってくれたものでした。竹を削る刃物もホームセンターではみたことがないような刃物だった印象があります。なんか古い。物置に所狭しと置かれた道具たち、ひろってきた(と思う)錆びたネジ類釘類、木材たち。薄暗い物置がゾクゾクして好きでした。
遊びに来る人も不思議な人が多かったです。近所に住んでいるカラスのじっちゃんは、カラスと住んでいました。いつも自転車の籠か肩にカラスをのっけて遊びに来ます。カラスのじっちゃんの話す言葉は私にはほとんど聞き取れず、でも祖父とカラスのじっちゃんはとても楽しそうでした。今だったらあの言葉を聞き取る努力をしてみたい。
でっかい馬を引き連れて遊びに来る人もいました。馬がかわいいからと家から出て行った私は全身を蚊にやられてひどい思いをしたのだけれど、祖父とその友達は馬の傍でやっぱりとても楽しそうでした。と、書いていると止まらないほどに祖父は幼少期の私にとって、不思議で魅力的な人でした。祖父とは実際に血は繋がっていないのですが、とっても深い愛をもらっていたし、どう考えても私のものづくりの根底にいる人なのです。そして祖母もずーっと編み物をしていた人でした。その色選びやコツコツ続けるという力の影響を受けていると思います。
そんな二人の影響が私にあるんだな。と思ったら、何だかどんどん誇らしい気持ちになってきて、自分の文様を作りたくなりました。幼少期からよく遊びに行っていた阿寒湖畔で目にしていたアイヌ紋様にずっと憧れがあって、その影響も大きく出たと思います。ひと針ひと針刺し続ける中で、思い出したり、感謝したり、思い描いたり、刺すことは祈りだなと思いました。今回その祈りを取り入れて靴や鞄を作る際にも、いつもの製作の感覚とは違っており、ひと作業ごとにゆっくりと祈るように作りました。
この機会をいただいたことで、今の自分がここにいることに、今こうしてものづくりをして生きていることに、故郷がしっかりと繋がっていたのだ!という嬉しい誇りをいただけた気がしています。
高橋宏美 Hiromi Takahashi(uzüra)
1976年生まれ。北海道釧路市出身。2003年エスペランサ靴学院卒業。2003年〜2004年婦人靴メーカー勤務。2004年フリーとなり、高橋収と手作り靴屋「uzüra」をはじめる
「北へ」
会期:2024年 9月19日(木)~10月7日(月)
会場:URESICA
生まれ故郷だったり、作品が生まれるきっかけとなった場所だったり
「北海道」という土地に縁のある作家による作品展
《参加作家》
加藤休ミ きくちちき 白石ちえこ 高橋宏美(uzura)
どいかや 本濃研太 松田奈那子 水沢そら
特別出展:大谷一良
http://uresica.com/gallery.html#tothenorth