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長崎望遠鏡展:河井いづみさんの望遠鏡

長崎望遠鏡展、参加作家の皆さんに質問をしました。
ひとりひとりの望遠鏡から覗く長崎。作品とあわせてお読みください。

回答者:河井いづみ

1)長崎で縁のある土地(出身地や通った場所など)
出身地「大三東(読み:おおみさき)」
最寄駅の島原鉄道・大三東駅は「日本一海に近い駅」のひとつとして紹介されることが多いです。

2)長崎でおすすめの場所(上記以外で)
「雲仙」温泉、雲仙地獄、自然(日本初の国立公園)、外国人避暑地としての歴史などの魅力が多く好きです。

3)長崎で行ってみたい場所
「五島列島」

4)おすすめの食べ物
「どんだへ」お餅に蒸したサツマイモを加えて混ぜ合わせた芋餅。きなこ砂糖やあんこをまぶして食べます。

5)思い出の土地やエピソードなど
夏が来ると「はなだごさん」を思い出す。 故郷の大三東(おおみさき)で行われる奇祭、"風除祭”(ふうじょさい) の神輿を先導する神様の名前だ。 だんごのような鼻を持つ神だから「はなだご」さん。猿田彦神と天狗さまが合わさった神様の、この地域独特の名称で、親しみを込め「さん」付けで呼ぶのが、故郷ではお約束。
はなだごさんは分厚い髪とヒゲの付いた赤い面に白装束、榊を手に、腰には炭の粉「へグロ」を入れた袋を下げた出立ちで、猛烈に追いかけてくる。そして、沿道の人々の顔に次々とヘグロを塗る。塗られると邪気払いされ、健康に過ごせるという大変ありがたい縁起物だから、大人は喜んで付けてもらうが、子どもにとっては、その見た目から恐ろしい。追いかけ回され、泣き叫ぶ。幼い頃の私も、もちろん泣きべそをかきながら全力で走った。
しかし不思議なことに一度塗られると平気になり、むしろ「はなだごさん」が大好きになる。
思うに、ものすごい迫力で追いかけるのに、子供を捕まえていざヘグロを塗るときは、ほっぺに優しく触れてくれるからではなかろうか。ギャップ萌えというやつだ。
たちまち私たちは立派な子分となり、真っ黒になった顔を誇らしげに披露しながら、鼻だごさんの後ろをついて歩いた。「あの子、あそこに隠れちょる」などと告げ口をして、子分らしい働きもした。

私の育った長崎県島原半島の北東部は、長崎市からは遠く、海を挟んだ熊本の方が近い。火山があり、湧き水が豊富で、肥やしの匂いがする畑と自然が広がるのどかな町だ。私は早く大人になって、ここから飛び出し、都会の洗練を浴びたかった。念願叶ってフランスで数年間活動したのち、ニューヨークなど海外で作品を展示した経験から、外側から日本を見ることもできた。東京での暮らしが長くなった現在、ふと故郷に思いを馳せることが多くなった。

本展に参加することになり、真っ先に心に浮かんだのが「はなだごさん」だった。記憶に残る鮮烈で温かな神に、大人になってからは初めて会いに行ったこの夏。あれだけ恐ろしかった「はなだごさん」に、気軽に話しかけてヘグロを塗ってもらうという、偉業を成し遂げた。
あの日、神様の子分を気取った子供は、立派なおばちゃんになったのだ。

風除祭で駆け回る、はなだごさんの起源は明らかではないが、もっとも古い記録では100年以上は続いているとのこと。また島原市は「猿田彦大神」と彫られた石祠が、街の鬼門にあたる場所や辻など、いたるところで見られる。その数400基以上。島原地域の民俗信仰、そして故郷で独自に続くはなだごさん。
私の実家の和菓子店が、東京の猿田彦珈琲から依頼されて、珈琲カステラを製造していることも、不思議なご縁を感じる。
本作は、私なりの「はなだごさん」への畏敬の念と、私を育んでくれた地域の風景を描いた。

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河井いづみ Izumi Kawai
イラストレーター、アーティスト。長崎県生まれ。東京都在住。
鉛筆画やリトグラフによる独自のテクスチュアを生かした、躍動と静けさが同居する世界観が魅力。2003年より3年間フランス・パリのアーティストインレジデンス等で活動。現在は東京を拠点に、書籍装画、広告、ファッションやパッケージのイラストやデザインなど、幅広い分野で仕事をする他、国内外での個展やアートフェア参加など展示も多数行う。

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長崎望遠鏡展
会期:9月25日(木)~10月13日(月祝)
会場:URESICA

「長崎」という土地に縁のある作家による作品展。
http://uresica.com/gallery.html#nagasaki

《参加作家》
河井いづみ 下妻みどり 高杉千明 長岡千陽(sen・京千) 西村洋一(nishimokko) PEIACO marini*monteany ヤマサキチヨ 山下アキ

《特別出展》
田川憲(木版画)協力:田川憲アートギャラリー Soubi'56
カシワイ(下妻みどり著『すごい長崎』〈新潮社〉線画原画)

《限定販売》
西善製菓舗 寅印菓子屋 piyototochat